RevCommで音声処理を中心とした研究開発を担当している加藤集平です。昨年3月に第二子が生まれて、1年間の育児休業を取得しました。私は男性ですが、男性の育児休業取得率・取得期間ともにここ数年急速に伸びている実感があります。しかし、1年間の育児休業を取得する例はまだまだ少ないように思います。本記事では、男性として実際に1年間の育児休業を過ごした経験から、正直どうだったのかについて共有します。
加藤集平(かとう しゅうへい)
シニアリサーチエンジニア。RevCommには2019年にジョインし、音声処理を中心とした研究開発を担当。ADHDと付き合いつつ業務に取り組む2児の父。
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なぜ1年間の育児休業を取得することにしたのか?
第一子のときは1か月間だった
第一子もRevComm在籍中に生まれたのですが、その際は里帰り出産への同行+1か月間の育児休業(生後2か月目の1か月間)という形でした。なお、妻は産後休暇と、子供が1歳になるまでの育児休業を取得しました。
ところが、1か月間の育児休業は、
- 家庭内環境の激変による部屋の模様替えと片付け(出産・育児で物が増えたので片付けてスペースを空ける必要がありました)
- いただいた出産祝の管理(内祝を返す必要があるので表にしていました)
- 来客対応(第一子ということもあり多かったのです)
に追われているうちに、あっという間に終わってしまいました。妻が体力の回復と子供の世話に集中するのに役に立ったとは思いますが、自ら子育てをしたか?と言われると疑問符の残る状況でした。
さらに、生まれたばかりの子供というのは、昼夜を問わず「寝る→起きる→泣く→授乳→寝る→…」を3時間〜4時間ごとに繰り返します。私は昼間業務があるので夜はまとめて寝かせてもらっていましたが、妻は細切れにしか睡眠が取れないので毎日大変です。個人差は大きいと思いますが、第一子の場合、夜に比較的まとまった睡眠を取るようになったのは生後4か月目頃からでした。
第二子は当初3か月間の予定だったが、1年間に延長した
というわけで、第二子の誕生に際して、当初は3か月間の予定で育児休業に入りました。なお、妻は今回も産後休暇と、子供が1歳になるまでの育児休業です。私が育児休業中は、2人で休業していることになります。
ところが、実際にやってみると3か月間もやはりあっという間に過ぎていきます。上に第一子がいますから子育ての難易度としては上がっており、なかなか心身の調子が整いません。育児休業も3か月目に入る頃、そのように思い悩んでいました。色々考えましたが、だったら思い切って1年間休んだほうが、自分にとっても家族にとっても会社にとっても最終的には利益になるのではないかと考え、当初の計画を延長し、1年間の取得とすることにしました。
1年間何をしていたのか?
子供の成長フェーズによって世話の負担は変わる
男性が1年間育児休業を取得する例は現状では少ないので、何をしていたのか気になると思います。まず言えるのは、生後1年間の子供の世話の負担は一様ではないということです。あくまで私の子育ての経験 (n=2) の話ではありますが、おおむね以下のようでありました。
1〜3か月: とにかく忙しくて眠い
およそ3か月目までは、前述のとおり子供はしょっちゅう寝たり起きたりして、授乳間隔も短い状態です。養育者全員(うちの場合は夫婦)が毎回付き合う必要はありませんが、睡眠はどうしても浅くなりがちです。また、公的手続や儀礼が多数あり、それらを確実にこなすにはかなりの労力が必要です。実際、第一子の時は完璧にやり終えたのですが、第二子の時は健康保険の手続を失念して少々困ったことになりました。今回は第二子ということで、赤ちゃん返りする上の子のケアも欠かせません。とにかく忙しくて眠い日が続きました。
4〜6か月: 空き時間が最も多い
生後4か月頃になると、(うちの場合は)昼夜のリズムがだんだんとできてきて授乳間隔も伸び、したがって大人も比較的寝られるようになります。子供はというと、首はすわったけれど、ハイハイはできないような時期です。つまり、その場から動くことはできません。子の安全を常に監視する必要はありますが、危険は比較的少ない状態です。うちの場合は、子供が息をしているか感知するセンサーを布団の下に仕込んでいました。そうすると、少しばかり空き時間ができます。この空き時間に心身を休めることも重要ですが、余裕があれば他のことをすることができます。
7〜9か月: 動き始めて目が離せなくなる
個人差が大きいですが、この時期にハイハイ(ずり這いを含む)を始める子が多いと思われます。ハイハイを始めると、子供が危険に遭遇する確率はグッと上がります。ずっと目を離さないのも疲れるので実際にはベビーサークルに入れたりしていましたが、目を離せない時間が増えるのは間違いなく、空き時間はその分減ります。
10〜12か月: 復職準備
スムーズに復職したければ、どうしても準備が必要です。最低限、すっかり変わってしまった生活リズムを元に戻すことは欠かせません。子育てに何とか慣れてきたところではありますが、最後の3か月は、だんだんと復職に向けた動きをすることになるでしょう。
私がしていたこと
上記のように、育児休業といえど100%の時間を子供の世話に費やすわけではありません(うちは夫婦で休業していたので、少なくともそうです)。むしろ、業務と子育ての両方で忙しい普段よりもまとまった時間が取れることもあるでしょう。私は以下のようなことをしていました。
業務に関する学び直し
私は業務で機械学習(特に深層学習)を扱いますが、深層学習が普及したのは私が大学院を卒業した後であり、体系的に学ぶ機会がありませんでした。深層学習はそれ以前の機械学習とは根本的に性質の異なる面があり、いわゆるアンラーニングが必要な状況でもありました。
そこで、育休の4〜6か月目を中心に、オンライン動画の講座を利用して、深層学習について体系的に学ぶことにしました。ついでに、機会学習のための数学・機械学習全般・敵対的生成ネットワーク (GAN)・自然言語処理・デジタル信号処理についても同様に学び直しを行いました。
さらに、復職準備の頃には、かねてより伸ばしたいと思っていたソフトスキルの講座を受け始めました(現在継続中)。
なお、育児休業中に育児以外のことをするのは賛否あるかと思います。個人的には、育児休業法の理念に照らしても、空き時間を活用してよりよい復職のための準備を行うことは、決して悪いことではないと考えています。
育児・介護休業法 第三条の2
子の養育又は家族の介護を行うための休業をする労働者は、その休業後における就業を円滑に行うことができるよう必要な努力をするようにしなければならない。
実家への長い帰省
いつもお盆と正月に短期間滞在するだけの実家ですが、普段より長めの帰省を行いました(私はついでに学会の聴講をしていたのですが…)。うちの場合は夫婦ともに実家が遠方であり、貴重な機会となったと考えています。
復職はスムーズだったか?復職して思うことは?
復職は比較的スムーズだった
復職準備には前述のように3か月間を充てることができたので、余裕を持って準備をすることができました。うちの場合は4月1日にいきなり第二子を保育園に預ける生活が始まるわけでもちろん混乱はありましたが、何とか乗り切ることができました。なお、私は子供の誕生日の前日(3月)の復職、妻は慣れ保育(慣らし保育)が終わった4月中旬の復職と復職時期をずらすことで、一つ一つの変化を小さく抑える工夫をしました。
また、1年間業務から離れていましたが、子育てに忙しい中でも比較的余裕を持って心身を整えることができ、慌てずに復職することができました。もっとも、2人の子供を育てる中で、多少のことでは動じない心がいつの間にか身についていたのかもしれません。
復職して思うことはたくさんある
1年間の育児休業を取得するという選択は、1年間業務に従事しないという選択でもあります。嫌々業務に取り組んでいるなら別ですが、業務を離れるということは多少なりともつらい思いがありますし、悔しいものでもあります。
比較的スムーズに復職することができて、現状では育児休業に入る前よりもむしろよいパフォーマンスを出せていると実感しています。これは、業務を長期間離れることでよい意味で心身がリセットされたこと、空き時間に行った学び直しを応用できていること、子育てを通じてよりタフになったことなどが関係していると考えています。
一方で、もし業務を離れていなければ、自分なりの貢献ができたのではないかと思う事象に遭遇することもあります。離れていた時間が戻ってくることはありませんし、よいパフォーマンスで今から貢献するしかないのですが、申し訳なくさみしく思う気持ちはゼロではありません。
長期の育児休業がハードスキルとソフトスキルに与える影響について
真摯に子育てに取り組んだことでソフトスキルが伸びた
あくまで私の個人的な経験でしかありませんが、真摯に子育てに取り組んできたことは、ソフトスキルを伸ばすことに役に立ったと考えています。私の場合は妻と共同で行っているので、妻との間で子育ての方針から細かな点まで合意形成をする必要があります。たとえ夫や妻がいなくても、子育ては一人でできるものではなく、どうしても周りの人や社会的な支援を受けながら行うことになります。夫や妻がいれば、互いに助け合うことになります。どのような支援を受けるか、あるいはどのように助け合うか、主体的に考え調整する必要があります。
このような作業は時に面倒で大きな労力を要しましたが、真摯に取り組んだことで、特に合意形成や調整といった面でソフトスキルが伸びたと考えています。前述のように別途ソフトスキルの講座は受けていますが、それだけでは足りない実践力が身につきました。さらに言うと、子の成長を見守るというのも大事な経験でした。無理やり成長させようというのは不可能です。粘り強く見守る力も身についたのかもしれません。
ハードスキルはキャッチアップが必要
一方で、ハードスキルについてはキャッチアップする必要がありました。私の取り組んでいる機械学習(特に深層学習)の世界は、まさに日進月歩。本当に1年間離れていれば浦島太郎です。絶え間なくキャッチアップする必要はありませんが、どこかでキャッチアップする必要はあります。離れるのは育児休業だから仕方ありませんし、浦島太郎になることは別に悪いことではないと思いますが、元に戻るためにはキャッチアップが必要です。ただ、個人的にはハードスキルは勉強すればいい話でソフトスキルを伸ばすほうが難しいと考えているので、長期の育児休業を取ったことは(少なくとも結果的には)よかったと考えています。
さいごに: 自分の選択を尊重しよう
育児休業を取得するという選択も、取得しない選択も、どちらも大きな決断を伴います。それが1年間という長期間であればなおさらです。何かを選択するということは、他の選択肢を諦めるということであり、何かを得る代わりに何かを失うということです。
私は第二子の誕生にあたり1年間の育児休業を取得する選択をしました。会社から一人が一年間離れるというのは、決して小さなことではなく、さまざまな人に影響を与える選択でした。しかし、(選択をした当時としては)最善を尽くした選択だったと考えており、結果として現在はよい状態とパフォーマンスで業務にあたることができています。もちろん、万人に1年間の育児休業を勧めているわけではなく、他の方は他の選択をされるかもしれません。育児休業に限った話ではありませんが、大きな選択であればあるほど最善を尽くして選択を行い、少なくとも自分自身がその選択を尊重されることを願います。