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ADHDの私がフルフレックス・フルリモート環境で生産性を上げるためにしている工夫

この記事は RevComm Advent Calendar 2022 の 4 日目の記事です。

RevComm で音声処理の研究開発を担当している加藤集平です。私は ADHD (注意欠陥・多動症)という障害を抱えています。私の場合は仕事をしていく上で困難がある(障害を持たない人と同じやり方では困難に直面する)のですが、それらの困難にどのように対処しようとしているのかを紹介します。また、弊社の働き方の特徴であるフルフレックス・フルリモート環境が及ぼす影響についても取り上げます。

本記事を読むにあたっての注意

  • 私は医師でもその他の ADHD の専門家でもありません。 ADHD に関する正確な情報は、専門家の発信をご参照ください
  • ADHD の症状(困難に直面するポイントあるいは本人の特性)は人によって異なることが知られています。また、同じ症状に対して同じ対処が有効とは限りません。本記事で取り上げるのは私の症状と私が実践している対処法であり、万人に通用するものではありません。
  • ADHD の診断は医師のみが行うことができます。自己判断はかえって困難を増大させるおそれがあります(たとえば、症状が似た違う病気かもしれません)。

ADHD とは

ADHD (注意欠陥・多動症)とは、精神障害のうち発達障害に分類されるものの一つです。発達障害とは、生まれつきみられる脳の働き方の違いにより、幼児のうちから行動面や情緒面に特徴がある状態です*1。発達障害の中でも ADHD は不注意・多動性・衝動性の3症状を主な特徴としており、それらの症状の影響で日常生活・学業・仕事などに様々な困難が生じることがあります*2。かつては子供だけに見られる病気と考えられていましたが、現在では大人になっても症状が継続する場合があることが知られています。

私と ADHD

私が ADHD と診断されたのは、2017 年(30 歳頃)のことでした。当時は前年に発症した強迫性障害*3という病気の治療のために心療内科に通っており、通院・治療の過程で ADHD であることが発覚しました。

強迫性障害とあわせて障害者手帳の交付を受けています

思えば物心ついた頃から忘れ物や物をなくすのは日常茶飯事で、部屋は常に散らかっており、コツコツ勉強することは決してなく、学校のテストではよく不注意で失点をしていました。

大人になり仕事を始めてからは、順序立てて仕事を処理することが苦手で締切に間に合わなかったり、他人に出した指示をすっかり忘れたり、単調な作業ですぐに寝てしまったり、体調に波があるために毎日 8 時間パフォーマンスを出し続けることが難しかったりして、仕事の遂行に支障をきたしていました。また、かつての勤務先では毎日オフィスに出社していたのですが、電話番をすることや周囲の話し声(雑音)が苦痛で頭がいっぱいになったりといった困難もありました。

診断を受けてからは、定期的に通院の上、服薬および日常生活の中での治療を続けています。

フルフレックス・フルリモート環境における恩恵と困難

ADHD を持つ人にとって、弊社のようなフルフレックス・フルリモート環境は適しているのでしょうか?私の場合は恩恵のほうが大きく勝りますが、フルフレックス・フルリモートならではの、オフィス出社にはない困難も感じています。これらの恩恵と困難を紹介します。

恩恵

体調の波を吸収しやすい(フルフレックス)

ADHD を持つ人すべてに当てはまるわけではないと思いますが、私は体調に比較的大きな波があります。つまり調子のいい日と悪い日の仕事のパフォーマンスの差がかなり大きいです。

フルフレックスの制度下では体調に合わせて比較的柔軟に勤務時間(長さおよび時間帯)の調整ができます。当然、打合せやプロジェクトの進行状況などの制約条件があるので完全に自由に調整できるわけではありませんが、それでも毎日決まった時間に仕事をしなければならない状況よりはずっとよいです。

静かな環境で仕事ができる(フルリモート)

自宅や家族構成などの諸条件に左右されますが、オフィスよりも静かな環境を用意することができる場合があります(私は用意できています)。私の場合は雑音が多い環境が苦手なので、静かな環境は集中力を高めるのに役立っています。

困難

自主的にやる気を管理する必要がある(フルフレックス・フルリモート)

フルリモート環境では、オフィスのように衆人環視の中で仕事をするわけではありません。人の目がない環境だとどうしても怠けやすくなります。しかし怠けすぎると、仕事の成果が出ず問題になります。

逆に、やる気に満ちあふれている時には過剰な長時間労働をするおそれもあります。フルフレックスの制度下では(法令の範囲内で)極端な時間の使い方をすることも不可能ではありませんが、健康の観点や、組織の一員として周囲と協調しつつ働く観点からは望ましくないでしょう。

ADHD を持つ人にはやる気のある時とない時の差が激しい人が少なくありませんが、やる気のない時に最低限のやる気を出すことと、やる気に満ちあふれている時に働きすぎないようにする工夫は、体調を整えつつ安定したパフォーマンスを出す上で重要だと考えています。

家事などの私生活と仕事のバランスを意識して取る必要がある(フルフレックス・フルリモート)

フルフレックス・フルリモート環境では、仕事中にいつでも私用を挟むことができます。特に在宅勤務の場合は、仕事の合間に家事をすることは珍しくないでしょう。

ところが、ADHD を持つ人には一度集中したら他のタスクになかなか移り難い傾向のある人が少なくありません(過集中)。つまり、家事を始めたらいつまでも仕事に戻れなかったり、逆に仕事に熱中して家事が疎かになったりすることがあります。

仕事に戻れないことは当然問題になりますし、家事が疎かになることも私生活においては問題になりえます。

私が困難に対処している方法の例

「自主的にやる気を管理する必要がある」に対して

朝起きたら布団を畳む

ADHD 以前の行儀の問題かもしれませんが、朝起きてしばらくしたら布団を畳みます(ベッドではなく、床に布団を敷いて寝ています)。床に布団が敷いてあっては、いつでも簡単に寝ることができてしまいます。畳んだ状態では、布団を敷くのにひと手間かかるので、簡単に寝ることができません。「布団を敷くのは面倒くさい」という ADHD ならではの感情を利用した工夫です。

仕事前に着替える

在宅勤務では、打合せがなければパジャマのままでも仕事をすることが可能です。打合せがあっても、下半身はパジャマのままでもバレません。しかし、私の場合は気持ちを仕事に切り替えるために、仕事前に必ずパジャマから着替えることにしています。オフィスに出社していれば通勤時間で気持ちを切り替える人も多いかと思いますが、在宅勤務は通勤時間がないので代わりにしっかり着替えることにしています。パジャマよりも寝心地が悪いので、安易な昼寝を防止する効果も期待できます。

筆者の仕事着の例。在宅勤務でもこのような服装で仕事をしています

専用の仕事部屋で仕事をする

誰もが実践できる方法ではありませんが、私はほぼ仕事専用の部屋を用意しています。私生活の場と空間を分けることで、仕事に対するやる気を出しやすくなります。やる気に乏しい日でも、机に座ってしまえば仕事ができることは珍しくありません。

コンテンツブロッカーを使う

会社の PC であれば不要な場合もあると思いますが、ネットサーフィン防止のために自主的にコンテンツブロッカーを設定することは有効です。在宅勤務では私物のスマートフォンをいくらでも見ることができるので、私は私物のスマートフォンにも設定しています。

適度に打合せを入れる

打合せは相手がいるので、安易に欠席することはできません。時々やってくるひどくやる気の出ない日でも、打合せ後は仕事ができることもあります。打合せを入れすぎてパニックになると本末転倒ですが、毎日適度に打合せがあることは安定したパフォーマンスを発揮するのに有効かもしれません。

労働時間をトラッキングする

以上はやる気のない時にやる気を出すための工夫でしたが、やる気に満ちあふれている時に仕事をしすぎない工夫も必要です。そのために、私は Toggl Track で労働時間をトラッキングしています。労働時間をトラッキングすることで、労働時間を毎日適当な範囲に収める助けになります。

「家事などの私生活と仕事のバランスを意識して取る必要がある」に対して

リマインダーに頼る

過集中の状態になると、目の前のタスクに集中しすぎて、私生活も仕事も他のタスクを忘れがちになります。忘れてしまうこと自体は仕方ないので、私はリマインダーに頼っています。多すぎて無視してしまわない程度に、何でもリマインダーに登録しています。

私生活に関するタスクは私物のスマートフォンのリマインダーを、仕事に関するタスクは Asana (タスク)・Google カレンダー(スケジュール)・Slack(メッセージに対するアクション忘れ防止)などを利用しています。

私生活に関するタスクのリマインダー

私生活の時間はカレンダーをブロックしてしまう

私は昔、仕事に熱中するあまり昼食を取り損ねることがよくありました。そこで、最近は昼食の時間 (12:00 – 13:00) はカレンダーをブロックして、かつリマインダーで知らせるようにしています。

スマートスピーカーに頼る(タイマー・アラーム)

洗濯をしたのに、つい仕事に熱中して何時間も干し忘れたことはありませんか?私はあります。そんな時にはタイマーやアラームが便利です。洗濯のできあがる頃合いに設定して知らせてもらいます。最近はスマートスピーカーに声で指示を出して設定するのが便利でよく使っています。

おわりに

以上の困難や工夫は私にとって一部であり、他にも仕事・私生活を問わず様々な困難に対してさまざまな工夫を日々行っています(ADHD をお持ちの方はお分かりになるかもしれません)。また、周囲の方々の支援なくして良好な社会生活を送ることはできません。改めて周囲の方々に感謝いたします。

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